パラダイムシフト

現在、国内外の第一線で活躍するデザイナー/アーティストを招聘し、1000年以上の歴史がある姫路の“白鞣し革”を用いたエキシビションを開催する

白鞣し革とは、薬品を一切使用せず、塩と菜種油のみで仕上げた動物本来の肌色の革のこと。一度は途絶えかけた白鞣しの技術を、現代の鞣し革職人 新田眞大氏が復活させた。歴史に裏打ちされたクラフツマンシップは、「究極=完成されていない」と話されていた。これらは下地であり、無垢であるために、あらゆる可能性を湛えている。

本展では「パラダイムシフト」というテーマのもと、デザイナー/アーティスト独自の視点を織り交ぜた白鞣しの可能性を提示する。パラダイムシフトとは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが劇的に変化することをいう。2021年現在、世界規模でのコロナ共存社会となり、思考も、行動も、生活様式も凄まじいスピードで上書きされ続けている。SDGsや動物愛護も騒がれて久しい。肉食の副産物として生産される革の文脈は、現在どう映るのだろうか。命との向き合い方はどうだろうか。哲学的であり、切り取り方次第で正解はない。気付きがある時にこそ、新しい価値の輪郭が立ち現れると考えている。

SO1 gallery
2021.2.24Wed – 3.7Sun
Opening Hours: 10:00–18:00
6-14-15 Jingumae Shibuya Tokyo 150-0001
Entrance Free

Re collect
2021 | 白鞣し革、スチールフレーム
Marcel BreuerがデザインしたWassily Chairを再解釈し、革部分に白鞣しを用いたスチールパイプ椅子。ヴィンテージ家具がメンテナンスを繰り返しながら人から人へと受け継がれていくように、時代を超えてコレクトされるモノづくりを目指した。カットされずに伸びているワックスコードには、白鞣しにも通じる手作業の温度を感じ取れる。360度どこから見ても端正な佇まい、使い込むほどに変わっていく白鞣しの表情を楽しんでいただきたい、“MAY ALSO LIKE”なプロダクト。
Ryuki Yamaka
山鹿 竜輝 | 1984年山形県生まれ、2006年文化服装学院卒業。2009年ED ROBERT JUDSON(エド・ロバート・ジャドソン)を立ち上げる。2013年MARY AL TERNA(メアリ・オル・ターナ)を始動。2020年よりユニセックスバッグブランドAL(オル)を開始。
HAREGI
2021 | 白鞣し革
富士山の麓に生息する鹿の白鞣しを使用した“究極の晴れ着”としての羽織。無駄な革が出ないよう取り都合を設計した。革の切り替え部に天然の墨を用いた染色を施し、現代の洋装とも相性の良いデザインに。自然原料からつくる製造過程には、同じく自然原料のみで加工される白鞣しの精神が体現されている。古くから日本人にとって特別な素材であった白鞣しでつくられたからこそ、薄れ行く日本の和服文化や自然の恩恵を無視した衣料産業の現状に対する示唆に富む一着となった。
Lisa Yamai
山井梨沙 | 1987年新潟県生まれ。BFGU(文化ファッション大学院大学)卒業。株式会社スノーピークに入社後、2014年に新規事業としてアパレル事業を立ち上げる。2020年3月に同社代表取締役社長に就任する。社長業の傍ら、デザイナーとしても自身のブランドである「YAMAI」や「LOCALWEAR by snow peak」の活動を引き続き行なっている。
遺品
2021 | 白鞣し革、シルバー
一度は途絶えたが復活を果たした白鞣し。圧倒的な存在感の中から見え隠れする独特の革の表情を眺めていると、不気味でおそろしさすら漂ってくる。一般的な革にはない白鞣しの気配でもある。今回のプロダクトは、現代のワードローブからは消えているが、一世紀前の衣装戸棚からタイムスリップして出てきたようなアイテムを、「遺品」というテーマでデザインした。バッグの留め具やポイントとなっているシルバーは、川西が率いる「LES SIX」に属する彫金師が手がけた。
Ryohei Kawanishi
川西遼平 | 株式会社LES SIX(レシス)代表。Parsons School of Design 元教授。1987年鳥取県生まれ。2011年にロンドン、セントラル・セイントマーティンズ学士号取得。拠点をニューヨークに移し、2015年LANDLORD NEW YORKを設立、クリエイティブディレクターに就任。2017年よりニューヨークコレクションに公式スケジュールで参加、年2回の発表を行う。同年LES SIXを設立。2020年LANDLORDを退任、活動拠点を日本に移す。
carbon leather boots, chain shoes, chain boots, sprit shoes
2021 | 白鞣し革、ラバーコード、ラバーソール / 白鞣し革、カーボン、ラバーソール / 白鞣し革、ウレタン、ラバーソール / 白鞣し革、ラバーコード、ラバーソール
白鞣しと工業的な副資材がミックスされた革靴。伝統的な製法によって丁寧につくられる天然の革から、機械的に大量生産される部品へのグラデーションが内包される。そこには、突如発生した新型コロナウイルスによって変化を余儀なくされた世界に対し、段階的に適応していくことしかできない人類の営みが映し出される。製作過程において、緑川は水分量等で状態が左右される繊細な白鞣しと向き合い、手作業での対話を何度も繰り返して靴を象った。時代がどのように移り変わろうとも、私たちは一歩一歩前へと進んでいくしかない。
Ryo Midorikawa
緑川遼 | 1986年北海道出身。2016年よりシューズブランドMIDORIKAWARYOを始動。
cartonbox on the table / lamp shade
2021 | 白鞣し革、ランプガード、真鍮ソケット、ツイストコード
白鞣し革、木製パネル、布
卓上で荷物を開梱した様子が壁面に設置され、ランプシェードが同じ視界に重なり天井から部屋を俯瞰して観た様な物の配列を表す。俯瞰する視点には、答えがわからないコロナ禍の状況や動物の革を扱うことの賛否など、自分の意思を模索する様子が投影される。人との接触が制限されるコロナ禍。ネットショッピングの利用増から触れる機会が多くなったダンボール箱を動物の肌にもっとも近い素材である白鞣しでつくることで、私たちが感じているスキンハンガー(=人との触れ合いに飢えている状態)を癒すことはできるのか。
Satoshi Ezaki
江崎賢 | 1984年佐賀県生まれ、2006年文化服装学院卒業。09年レザープロダクトを中心に展開するED ROBERT JUDSON(エド ロバート ジャドソン)を立ち上げる。19年に新たにbeta post(ベータ ポスト)を始動。「観る人の思考を促すこと」を目的に、小物やウェアなどのプロダクトが問題提起をする媒介となることを目指す。
GIGI Pants
2021 | 白鞣し革
空手の道着から着想を得て白鞣しでつくられたパンツ「GIGI」。アイテムの型はKOZABUROが新たに立ち上げたレーベル「Wave of Sand」が掲げる新しい時代への普遍的かつ機能的なモノづくりから生まれた。ところどころ見える穴は加工ではなく、自然による産物。同氏は、鑑賞者が白鞣しの持つ文化や歴史を自発的に探求し、モノの有り難みにまで気付きを与えることを目指した。そして、移り変わりの激しい時代において、今なお受け継がれて存続しているモノにはなにか必ず意味がある。修行にも似た問答に、白鞣しの精神を帯びた道着が見事にリンクする。
Kozaburo Akasaka
赤坂公三郎 | 1984年東京生まれ。2011年にセントラル・セント・マーチンズのファッション学部BAを、2016年にパーソンズのMFA を卒業。ニューヨークにてTHOM BROWNEのメンズデザイナーとして経験を積み,KOZABUROを設立し、2017年にはLVMH PRIZEにて特別賞を受賞。今年新ブランドWave of Sandを発表。現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動中。
Purify
2021 | 白鞣し革、絹紐、レーヨン紐
古くから日本の甲冑や兜に使われる革や絹糸の組紐で小札板を重ねながら結び合わせる“縅し(おどし)”という技法を、デザイナーの中川独自の縅し方にて1枚のタペストリーを制作し、川を表現した。川は我々の命の源であり、白鞣し革の生産を支える要でもある。いい革作りには活発な微生物が生きている綺麗な川の存在が不可欠で、白鞣しを生み出す姫路の美しい自然と、職人仕事への敬意を作品に込めた。
Satoko Nakagawa
中川聡子 | 1980年東京生まれ。ニューヨークと東京を拠点に活動。Fashion Institutes of Technology (ニューヨーク州立ファッション工科大学)の卒業制作の構想中に訪れたMET(メトロポリタン美術館)で桃山時代の甲冑と兜に魅せられ独学を始める。研究発表作品が、Accessories Councilより3部門で最優秀賞に入選。その一年後、2017年3月にHATORIを創業。9月にニューヨークのグループ展に参加。初のコレクションを発表。2019年12月より量産生産を日本に移し、個人オーダー等の特注品は創業時と変わらず、裁断から組み立てまで一貫してアトリエで制作している。
Untitled
2021 | 白鞣し革、プラスチックバケツ
プラスチックのバケツのふちにかけられたくたくたの雑巾。一見すると私たちはその素材を布だと連想するが、その実、白鞣しでつくられている。白鞣し特有の表情を布雑巾の汚れのように錯覚してしまうのは、記憶から形成される固定観念によるものである。最高峰の革素材を、その対極に位置するカジュアルな繊維製品に誤認させる本作は、モノの組み合わせひとつで揺らぐ私たちの視覚、さらには価値観の不安定さを表現し、他者への理解が求められる現代社会を生きるうえでの必要な気付きをもたらす。
Kazuma Ogata
緒方 数馬 | 福岡生まれ、現在東京を拠点に活動。 日用品を拘束したり積み上げていくインスタレーション作品のシリーズを始め、 個展、グループ展を多数行う。

1000年以上の歴史がある"白鞣し革"の歴史・文化を、世界に向けて発信するLeather Japan Project

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